ECでも「ユーザビリティ」を考える時代が来た これまでECでは、広告やSNSなど、お客様と接触する媒体を研究し、改善していけば、新規のお客様から注文を獲得することができました。 どんな広告を出すのか。 どんなクリエイティブを作るのか。 どんな投稿をすれば反応が取れるのか。 こうした「購入前の接点」を改善することで、事業を伸ばせた時代があったと思います。 しかし、最近は広告費をかけ、クリエイティブを改善するだけで、簡単に新規のお客様が増える状況ではなくなってきました。 もちろん、新規獲得ができなくなったわけではありません。 ただ、広告だけに頼って事業を成長させ続けることは、以前より明らかに難しくなっています。 だからこそ、これから重要になるのが、購入してくださったお客様との関係性です。 新規獲得が難しいからこそ、LTVが重要になる ECではよく、LTVを高めることが大切だと言われます。 LTVとは、一人のお客様がそのブランドやショップに対して、長期的にどれくらいの売上をもたらしてくれるかを表す考え方です。 分かりやすいのは、商品を繰り返し購入していただくことです。 一度購入したお客様に、二度目、三度目と利用していただく。リピーターが増えれば、新規のお客様を獲得し続けなくても、売上が安定しやすくなります。 一方で、LTVの高め方は、リピート購入だけではありません。 商品を気に入ったお客様が、家族や友人に紹介してくれる。 自分用には頻繁に購入しない商品でも、プレゼントやギフトとして選んでくれる。 こうした広がり方も、長期的に見れば非常に大きな価値があります。 買い切りの商品であっても、ブランドのファンになっていただくことはできます。 「リピート商材ではないから、リピーター施策は難しい」と諦める必要はありません。 購入後に放置されて、ブランドを好きになるだろうか リピート購入について話をすると、 「それはリピート商材だからできるんですよ」 と言われることがあります。 確かに、毎月消費する商品と、一度購入したら長く使う商品では、リピート率は異なります。 しかし、そもそも考えてみてほしいのです。 自分が商品を購入した後、ブランドから何の連絡もなく、何のフォローもなく、完全に放置されたとします。 その状態で、そのブランドを強く好きになるでしょうか。 おそらく難しいと思います。 購入後に自動のステップメールを送っているから大丈夫。 ときどきクーポンを送っているから大丈夫。 それだけでは、お客様との関係性をつくっているとは言えません。 お客様が困ったときに相談できること。 商品を使う中で生まれる疑問に答えてもらえること。 ブランドの考えや背景を知る機会があること。 こうした積み重ねによって、少しずつ信頼や愛着が生まれます。 リピーターを増やしたいのであれば、まずは購入してくださったお客様を大切にする必要があります。 当たり前の話ですが、できていないECは決して少なくありません。 メルマガやLINEだけでは、まだ足りない 僕自身、これまで購入者の方との関係性をつくるために、メルマガやLINEでのコミュニケーションを大切にしてきました。 毎日の情報発信や、LINEでの一対一の接客によって、細かな疑問や悩みに対応する。 その積み重ねが、 「少し高いけれど、ここで買いたい」 「いつもこのお店を利用している」 と思っていただける理由になっていると感じています。 ただ、最近は、それだけでも十分ではないと思うようになりました。 きっかけは、国内外のさまざまなECサイトから実際に商品を購入し、届いた商品や同梱物を見比べたことです。 その中で、特に印象に残ったブランドがありました。 商品と一緒に、ブランドのコンセプトやストーリーをまとめた、しっかりとした冊子が入っていたのです。 大量のチラシが無造作に入っているわけではありません。 写真が美しく、デザインも整っていて、思わず手に取りたくなる一冊でした。 紙の質も良く、簡単には捨てにくい。 部屋に置いていても違和感がなく、自然とブランドの世界観に触れることができます。 その体験を通じて、 「ECでは、届いた後の体験をまだまだ改善できる」 と感じました。 同梱物は、商品説明ではなくブランド体験 同梱物というと、商品の使い方やキャンペーン情報を記載したチラシを思い浮かべる方が多いと思います。 しかし、単なる販促チラシは、すぐに捨てられてしまう可能性があります。 特に、売り込みの情報ばかりが並んでいるものは、読まれにくいでしょう。 一方で、ブランドの背景や考え方、商品が生まれた理由を丁寧に伝えるコンセプトブックであれば、受け取られ方が変わります。 商品を購入しただけでは分からないブランドの思想を知ることで、お客様との距離が縮まります。 もちろん、冊子を作れば必ずリピートされるわけではありません。 ただ、商品だけが無機質に届くのと、ブランドの思いが伝わる状態で届くのとでは、受ける印象は大きく異なります。 費用を抑えるために、同梱物をすべて簡素化する考え方もあります。 しかし、一冊100円程度のコストがかかったとしても、それによってブランドへの理解や愛着が深まり、リピートや紹介につながるのであれば、単なる経費ではありません。 顧客体験への投資です。 毎回入れる必要はなく、初回購入時だけ同梱する方法もあります。 大切なのは、何となくチラシを入れるのではなく、 「商品を開封したお客様に、どんな気持ちになってほしいのか」 から逆算して設計することです。 インターネットだからこそ、リアルな体験が重要になる ECは、画面上で商品を販売するビジネスです。 広告、SNS、商品ページ、メルマガ、LINEなど、多くの接点がデジタル上にあります。 そのため、画面上のコミュニケーションばかりに目が向きやすくなります。 しかし、お客様が実際に受け取るのは、デジタルデータではありません。 箱に入った商品です。 商品が届いたときの箱はどうか。 開封したときに気分が上がるか。 パッケージは使いやすいか。 粉がこぼれにくいか。 持ち運びやすいか。 毎日無理なく使えるか。 捨てるときに困らないか。 こうした細かな体験が、商品への評価をつくります。 商品ページがどれだけ魅力的でも、届いた商品が使いにくければ、次の購入にはつながりません。 反対に、商品を使うたびに便利さや心地よさを感じられれば、ブランドを思い出す機会は自然と増えていきます。 これからのECでは、購入前の広告だけでなく、商品が届いてから使い終わるまでの体験を設計する必要があります。 D2Cも、インターネットだけでは完結しない 以前は、インターネット上で商品を販売し、広告によって一気に事業を拡大するD2Cブランドが注目されました。 しかし、急成長したブランドの中には、その後、事業が伸び悩んだり、店舗を閉鎖したり、企業価値を大きく下げたりした例もあります。 インターネット上で話題をつくり、新規のお客様を大量に獲得する。 そのモデルだけでは、事業を長期的に成長させることが難しいということです。 一方で、長く支持されるブランドは、商品を売るだけでなく、商品を使う体験やブランドとの接点まで丁寧につくっています。 インターネットで販売しているからといって、体験まで二次元で完結させる必要はありません。 むしろ、オンラインで販売するブランドだからこそ、商品が届いた瞬間のリアルな体験が重要になります。 商品の「形状」が、継続のハードルを下げる ユーザビリティを考える上で、同梱物や梱包と同じくらい重要なのが、商品の形状です。 たとえば、栄養を補う商品を販売するとします。 サプリメントとして販売する方法もあれば、粉末ドリンクとして販売する方法もあります。 成分や栄養設計が優れていたとしても、 「サプリメントを毎日飲む」 という行動そのものに抵抗を感じる人はいます。 一方で、 「水に混ぜてジュースのように飲む」 という形であれば、日常生活に取り入れやすい人もいるでしょう。 ここで大切なのは、商品の中身を変えることだけではありません。 同じ価値でも、提供方法を変えることで、お客様が感じるハードルは大きく変わるということです。 大袋の粉末を、毎回スプーンで量って飲む。 これを面倒に感じる人もいます。 しかし、一回分ずつ個包装されていれば、袋を開けて水に入れるだけです。 旅行や職場にも持っていけます。 計量する必要もありません。 小さな違いですが、継続しやすさは大きく変わります。 商品の価値を伝えるだけでなく、その価値を無理なく体験できる形にする。 これもEC事業者が考えるべき重要な仕事です。 行動を変えさせるより、今の生活に入り込む 新しい商品を販売するとき、事業者はつい、お客様に新しい習慣を身につけてもらおうとします。 毎朝プロテインを飲んでください。 毎日サプリメントを飲んでください。 専用の器具を使ってください。 しかし、人の行動を変えるのは簡単ではありません。 どれだけ良い商品でも、生活に取り入れるハードルが高ければ、続きません。 だからこそ、 「お客様の行動を変えるにはどうすればいいか」 ではなく、 「今ある生活の中に、どうすれば自然に入り込めるか」 を考える必要があります。 普段ジュースを飲む人なら、ジュースのように飲める形にする。 持ち歩く人なら、個包装にする。 会社で飲む人なら、専用の大きなシェイカーではなく、透明でコンパクトなボトルを用意する。 商品の周辺環境まで整えることで、利用のハードルを下げられます。 商品単体を売るのではなく、その商品を続けやすい環境まで一緒につくる。 ここに、これからのECの商品開発の可能性があると思います。 店頭で説明しやすい商品は、ECでも伝わりやすい 形状や使い方を見直すと、商品の説明も分かりやすくなります。 たとえば店頭で、 「この粉末を一本、水に入れて飲むだけです」 と説明されたら、使い方をすぐにイメージできます。 「これだけの栄養を手軽に取れます」 という価値も、伝わりやすくなります。 一方で、使い方が複雑だったり、準備するものが多かったりすると、それだけで説明が難しくなります。 これはECでも同じです。 商品ページ上で長い説明をしなければ使い方が伝わらない商品より、写真や短い言葉だけで利用場面をイメージできる商品の方が売りやすい。 つまり、ユーザビリティを改善することは、利用者の満足度を高めるだけでなく、商品の伝えやすさや売りやすさにもつながります。 広告を改善する前に、商品体験を見直す 売上が伸び悩んだとき、多くのEC事業者は広告を見直します。 キャッチコピーを変える。 バナーを変える。 商品ページを変える。 ターゲットを変える。 もちろん、これらも必要です。 しかし、広告で購入してもらった後の商品体験に問題があれば、新規のお客様を増やしても、リピートにはつながりません。 穴の空いたバケツに水を注ぎ続けるようなものです。 商品が届いたとき、どんな印象を受けるのか。 開封しやすいか。 使いやすいか。 続けやすいか。 誰かに紹介したくなるか。 ブランドの考えが伝わるか。 こうした部分を見直すことなく、広告だけを改善し続けても、事業は安定しません。 これからのECに必要なのは、購入前から購入後までを一つの体験として捉えることです。 まだ改善できることは、たくさんある 今回、さまざまな商品を実際に購入し、同梱物やパッケージを見比べたことで、改めて気づきました。 ECには、まだまだ改善できることがあります。 しっかりとしたコンセプトブックを同梱する。 商品の形状を見直す。 個包装にする。 使いやすいボトルを用意する。 商品を続けやすい環境まで提案する。 一つひとつは、驚くほど新しい施策ではありません。 実店舗で商売をしている人からすれば、当たり前の話かもしれません。 それでも、インターネットで商品を販売していると、広告やデジタル上の数字ばかりに目を向け、こうした基本的な体験を忘れてしまうことがあります。 新規のお客様を増やすことだけが、ECの成長ではありません。 購入してくださった方に、使いやすいと思ってもらう。 続けたいと思ってもらう。 誰かに話したいと思ってもらう。 その積み重ねが、リピートや紹介につながり、長く支持されるブランドをつくります。 広告だけでは売れにくくなった今だからこそ、商品が届いた後の体験に、もう一度向き合うべきではないでしょうか。 音声はこちら▶︎